目に「見えるもの」と「見えないもの」・・・
先日、業界新聞で省エネ対策の新しい法律改正の記事を読みました。また新しく建築を取巻く環境が変わると思います。思えば、平成12年の建築基準法大改正頃からが、住宅に関する大転換期の様に思います。
大きい改正は品格法の住宅の品筆確保の促進等に関する法律ですね。性能評価では、(構造の安全、火災時の安全、劣化の軽減、維持管理への配慮、温熱環境、空気環境、光・視環境、音環境、高齢者等への配慮)様々の項目に対して数値化して等級化する事により目に見えて比較する事が出来るようになりました。
例えば構造の安全では、阪神淡路震災の地震により倒壊しないレベルを1等級としています。さらに1等級に1.25倍の力を加えたもので倒壊しないレベルを2等級、さらに1.25倍で3等級という具合です。
この内容では、相当強そう…くらいは頭で理解できると思いますが、体感する事ができますか?
最近住宅メーカーやビルダー等で、住宅の性能基準でよく言われるのは気密のレベルや断熱性能(開口部…サッシなどの熱損失を含む)の話ではないでしょうか?(省エネを踏まえて)
C値(気密レベル・・・1㎡あたりの隙間面積)やQ値(熱損失係数・・・室内外の温度差が1℃の時、建物全体から1時間に床面積1㎡あたりに逃げ出す熱量)と言われてどの位の違いがあるか?また感じる事はできますか?
自然での夕日が綺麗で感動したや、風を感じて気持ちがいいなどを数値化する事は可能かもしれません。(夕空の赤色の色度や範囲、雲の量や形状がどうで・・・風の温度や湿度風速や揺らぎをどうすれば・・・等々)
数値化し見える形にして、全て解決するのでしょうか?綺麗だとか気持ちいいとか心の安らぎや落ち着くというものを得られるのでしょうか?
人が気持ち良いとか安らぐという感覚は、性能だけでは語れない部分が大きく、人の感性に訴えるものは別のところにあると思います。(もちろん、性能も大事な事なのですが・・・)
例えば、面積の同じ部屋の場合、一つは同じ仕上げで統一した床材、もう一つは素材の異なる2種類の床材で仕上げた場合、2種類の床材で仕上げを変えた方が空間を区切った様に狭く感じます。
別の例を挙げれば、「開放感のある空間」と言っても何を持って開放的と感じるのでしょうか?
実際の面積や体積の問題だけではありません。(確かに実質の面積や体積の数値が大きい方が開放的ではありますが…)
良く、天井が高いと開放的と言われます。これは一つの要因であって、全てに当てはまるものではありません。
天井が通常よりも低くても開放的に感じる事は可能なのです。(限られた面積や体積であっても。)
人の感覚では視線が遮られる事により閉鎖感を感じ、狭く息苦しいと感じます。天井を高くしなくて視線を伸ばす(見通す)事で広がりを感じる事ができます。
また、空間に強弱をつけるのも一つの方法です。狭い空間と見通せる空間を対比させる事でより広さを強調できます。(色彩についいても、明るさに対しても同様です。)メリハリですね・・・。
この様に、様々な建築的操作を行う事によって広がりを感じる事は可能なのです。
人の感覚はある時は繊細で、ある時はアバウトなものです。様々な要件を計測し、数値化する事が出来てもイコール快適で気持ちのいい空間にはなり得ないと思います。視覚、嗅覚、聴覚、触覚(五感と言いたいですが、味覚は・・・無理ですね。)これらにより空間的感覚を認識しています。
人の感覚に影響を及ぼすものは「目に見えないもの」の要因が大き様に思います。その時の気分や体調によって左右されるもので、感じる人によって違う感覚を同一の数値によりまとめるのは無謀な事の様に思うからです。
料理でも、人が美味しいというレストランに行ったけど、そうでもなかった。そういう経験をされた事はありませんか?(人気ランキング1位の◯◯のお店!など自分以外の方のおすすめで。)もちろん、「想像以上に美味しかった」という事も有りますが。
人は、それぞれ好みや感覚は違うものなのです‼︎もっと自分たちの思いを精査して本当に求めているものは何なのか?どういうものが必要なのかを考えていただきたいと思っています。なかなか難しい問題ですが、今までの経験上、意外と「なんとなく」という方は少なくありません。
これから、何十年も住まうはずの住宅に予算や場所や時期、性能やブランドで建築して良いのでしょうか?本当に望んだものを手にする事はできますか?
「見えるもの」以上に「見えないもの」に気持ちを向ける時間を取っていただければもっと良い建物が建築でき、愛着を持って楽しく住まう事が出来ると思います。そのお手伝いをするのが、私たちプロの仕事です!